半島の交通を考える~伊豆半島下田市の実証実験レポート

渋滞や環境負荷の低減、公共交通の維持、そして移動手段不足など、様々な交通問題を解決するシステムとして、世界中で注目されている「MaaS(マース)」。Mobility as a Service(直訳:サービスとしての移動)の略で、国土交通省のホームページでは「出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスに一つのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく、利用者にとっての一元的なサービスとして捉える概念」と説明されています。国土交通省は、日本版MaaSの展開に向けて、地域モデル構築を推進。伊豆半島では、日本初となる観光型MaaSの実証実験を実施しています。どのような仕組みなのか、実証実験の様子をレポートします!
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目次 
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    東京から最短37分の「ユネスコ世界ジオパーク」

    伊豆半島は、静岡県の東部に位置しています。約2000万年前には、はるか南、フィリピン海プレート上の海底火山群でしたが、プレートの移動で北上。本州に衝突して約60万年前に半島化しました。その後「伊豆東部火山群」の活動によって、温泉が湧き、地球の動きの一端を見ることができる特徴的な地形が誕生。「伊豆半島ジオパーク」として2018年4月、「ユネスコ世界ジオパーク」に認定されました

    上から見るとハート型の龍宮窟

    下田市田牛にある「龍宮窟」は、波の浸食作用によって出来た洞。
    上から見るとハート型で、パワースポットとして人気です。

    伊豆半島の付け根「熱海」駅まで、「東京」駅から新幹線・ひかりで約37分。半島の南東部に位置する下田の「伊豆急下田」駅へは、市内を通る伊豆急行伊豆急行線がJR東日本と直通運転しているため、特急に乗車すれば、東京や新宿をはじめ、休日には大宮や池袋からも乗り換えなしで訪れることができます。

    アクセスが良く、多くの観光客が訪れるものの、日帰り客の割合が高かったり、キャッシュレスや多言語に対応できていなかったりと、観光拠点としての課題が。また高齢化が進む地域としては、最寄り駅などの交通拠点から自宅までの移動手段「ラストワンマイル」が課題となっています。

    AIオンデマンドバスで下田の観光と地域の課題を解決

    実証実験の一つ目は、「下田AIオンデマンドバス」。下田市中心街に設定された27カ所の停留所で乗り降り自由なサービスで、利用者のニーズに対応して運行します。

    「伊豆急下田」駅をはじめ、観光施設や公共施設、スーパーなど、観光客にとっても地元住民にとっても便利なスポットが停留所になっているため、観光と地域、双方の課題解消が期待されます。

    「下田AIオンデマンドバス」の走行エリア(東急株式会社の資料より)

    「下田AIオンデマンドバス」の走行エリア(東急株式会社の資料より)

    使い方は、3ステップ。まずは専用ウェブサービス「Izuko(イズコ)」に登録します。次に、オンデマンド交通のページから1日有効のフリーパスを購入。価格は、大人(中学生以上)400円、子ども(小学生)200円と、バスやタクシーを使うよりもかなりお得です!(※小学生未満は無料)

    Izuko

    「Izuko」には、クレジットカード情報なども登録しなければならないので、事前に登録しておくのがベター

    そして、乗降希望の場所を入力して配車予約し、手続き終了。時間指定もできるので、下田への旅行の際は「伊豆急下田」駅に到着する電車に合わせて事前に予約しておいたりすると便利でしょう。

    予約が完了すると、画面に到着予定時刻が表示されるので、指定した停留所で待つだけ。「市役所」から「メディカルセンター」への配車予約をしたところ、待ち時間は約8分でした。到着予定時刻が表示されると、その間に飲み物を買ったりトイレに行ったりと、時間を有効活用できていいですね。オンデマンドバスが到着したら、ドライバーに名前を告げて乗り込みます。

    オンデマンドバスの停留所

    オンデマンドバスの停留所は、遠くからだとわかりにくいのが改良点

    運行ルートは決まっておらず、リアルタイムで入ってくる客の様々な乗降予約の情報をAIが判断し、最適なルートを提示。ドライバーは、そのAIが指定したルートに沿って運転します。目的地である「メディカルセンター」に向かう途中の停留所で、お客さんが乗ったり降りたり。バスとタクシーとの間のような形態です。

    8人乗りのジャンボタクシーを活用した「下田AIオンデマンドバス」

    「下田AIオンデマンドバス」は、8人乗りのジャンボタクシーを活用

    AIの指定ルートに沿って運転するドライバー

    ドライバーは、画面に表示されるAIの指定ルートに沿って運転します

    配車システムは、はこだて未来大学発のベンチャー・未来シェアが開発しました。「下田AIオンデマンドバス」は、地元タクシー会社3社が共同で運営。乗車したオンデマンドバスのドライバーに話を伺ったところ、普段タクシーを運転するのと変わりなく、負担はまったくないそう。2019年12月1日~2020年3月10日の実験期間中は、8人乗りのジャンボタクシー2台が9:00〜17:00に運行します。

    下田市では、スマホでの操作が難しい方向けに、テレビでの配車予約も試験導入(東急株式会社の資料より)

    下田市では、スマホでの操作が難しい方向けに、テレビでの配車予約も試験導入
    (東急株式会社の資料より)

    課題は残るが近未来技術・自動運転に大いに期待

    実証実験の二つ目は、自動運転です。名古屋大学が開発した自動運転システムを搭載したゴルフカートが、下田市内のあらかじめ登録されたルートを自動で走行。乗務員不足への対応や、免許返納者をはじめとした移動困難者の“足”として期待される自動運転が、街中でも安全かつ快適にできるよう、技術的な検証が行われました。

    自動運転中の様子。ゴルフカートの座席シートやレインカバーなどはそのままになっている。

    自動運転中の様子。ゴルフカートの座席シートやレインカバーなどはそのままで、
    乗り心地に関する部分は改良されていません

    2019年12月9日〜19日までの実証実験中は、「メディカルセンター」と「伊豆急下田駅」、「道の駅」とを結ぶルートを走行。我々は「メディカルセンター」から「伊豆急下田駅」への約2kmのルートを試乗しました。

    ゴルフカートは最高で時速19km出るそうですが、自動運転中は時速13kmほど。早めに歩いて時速4.8 kmなので、徒歩の3倍近くの速さです。街並みを眺めながらの移動に、ちょうどいい速度だと感じました。

    乗務員1名と乗客2名が乗車定員

    乗務員1名と乗客2名が乗車定員。実証実験中は自動運転システムの担当者も乗車

    自動運転システムはまだ、障害物に対する判断が完璧ではないため、路上駐車があったり、交通量が多い交差点に差し掛かったりすると、手動に切り替えての運転に。それでも自動運転中、横断歩道を人が渡ろうと道路に近寄ると早めに停車。立ち止まっている人にも反応して停まってしまうのが課題ですが、停車は滑らかとまではいかないものの、比較的スムーズでした。

    横断歩道を渡る人を検知し停車する様子

    横断歩道を渡る人を検知すると、きちんと停車

    日本初の観光型MaaS「Izuko」で伊豆半島をシームレスにつなぐ

    取材した実証実験は、「伊豆MaaS」の一環です。伊豆半島への観光客が、AI オンデマンドバスをはじめ、鉄道やバスなどの交通機関を、スマートフォンで検索・予約・決済し、目的地までシームレスに移動できる快適な環境を、東急とJR東日本が事業主体となって整備。観光振興と地域活性化を図る狙いがあります。

    今回は第2弾となる「Phase2」。2019年4月1日〜6月30日に行われた「Phase1」では、専用アプリ「Izuko」でサービスを提供していましたが、今回は「Izuko」をウェブサービスに切り替えました。前回、アプリのダウンロード数は目標数を大きく超えましたが、使いづらさなどから、デジタルパスの購入数が伸びなかったためです。

    「Phase2」での「Izuko」のサービスエリア(東急株式会社の資料より)

    「Phase2」での「Izuko」のサービスエリア(東急株式会社の資料より)

    さらに、「Izuko」のサービスエリアと商品内容を拡充。実証実験を行った「伊豆急下田」駅周辺のオンデマンド交通のエリア拡大をはじめ、「熱海」駅周辺と「熱海」駅~「伊東」駅のJR伊東線沿線、「三島」駅以北が加わりました。電車やバスが乗り放題となるデジタルフリーパスは、2種類から6種類に。「Izuko」を使っての旅行プランの選択肢が広がりました。

    デジタルフリーパスの種類(東急株式会社の資料より)

    デジタルフリーパスの種類(東急株式会社の資料より)

    デジタルフリーパスの種類(東急株式会社の資料より)

    デジタルフリーパスの種類(東急株式会社の資料より)

    また「Phase2」では、キャッシュレス推進に向けて、日帰り温泉や着付けなどの観光体験チケットも販売。観光施設入場券なども含め、デジタルパスは7種類から12種類に増加しました。地域の施設やイベントと協力し、デジタルフリーパスを利用することで参加可能なイベントや、ショッピングの割引、宿泊時の特典付与なども用意。伊豆半島への旅行が、より魅力的になるよう改良しています。

    デジタルフリーパスは、購入したら見せるだけ(東急株式会社の資料より)

    デジタルフリーパスは、購入したら見せるだけ(東急株式会社の資料より)

    県や企業が一体となって地域交通課題解消に

    自動運転は、静岡県による「しずおか自動運転ShowCASEプロジェクト」の一環です。このプロジェクトは2018年に発足。EV(電気自動車)や自動運転車両など次世代自動車の研究によって、県内企業の技術開発を促進し、静岡が先進技術において全国のShowCASEになることを目指しています。

    県は、11の企業と2つの大学と協定を締結。自動運転等の次世代技術を活用して移動サービスによる地域交通の課題を解決すべく、県内の4カ所で実証実験が行われています。

    下田市での実証実験は、自動運転だけでなく、「下田AIオンデマンドバス」も含めた観光型MaaS「Izuko」と連携している点が特徴。自家用車に代わる、快適な移動手段の確保に、県や市、企業が協力して取り組んでいるのです。

    幕末に開国の舞台となった下田市内の「ペリーロード」

    「ペリーロード」など、幕末に開国の舞台となった下田市内には見所がたくさん

    観光シーズンや伊豆でのオリンピック開催に向けて

    開国の街・下田市の中心街には、観光施設や公共施設が、タクシーで1、2メーターほどの距離感にまとまっています。言い換えると、歩くには少し遠いし、バスを待つのも、タクシーをその都度使うのも悩ましい……という微妙な距離。

    さらに普段、ICカードでの交通利用に慣れていると、都度現金を用意するのが面倒に感じたりもします。「Izuko」や今回試乗した自動運転とAIオンデマンドバスが普及・実用化されれば、スマホで手軽かつ手頃に移動できるので、行動範囲が広がるのではと思いました。

    AIオンデマンドバスは現状、運行時間が9:00~17:00ですが、夜の時間帯も使えるようになれば、飲酒運転の撲滅にもつながりそうです。また、半島ならではの交通事情として、海岸沿いの幹線道路に交通が集中。自家用車で訪れる観光客による交通渋滞も課題となっているので、その解消にも一役買いそうです。

    伊豆半島は春になると、河津桜や吊るし雛などの観光シーズンに。さらに夏に伊豆市で東京2020オリンピック競技大会自転車競技の開催が予定されています。「MaaS」を整備することで、観光客が一つの目的から、ついでに伊豆半島を周遊しやすくなり、半島全体の活性化につながっていくことでしょう。

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    【イベント情報】半島サミット開催!~里山でも島でもない新しい選択肢「半島暮らし」~ https://cocolococo.jp/topics/29483

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